書簡・編

おたくもすなる日記といふものを、我もしてみむとて、するなり。

056: 2022年11月11日_すずめの戸締まり、Good Luck!/ふたり、LIFE!・音ダメ家族、CLASSY. 2022年12月号

拝啓

くらがりへ人の消えゆく冬隣*1

 先日NHKホールでの山下達郎さんのライブに行ったのですが、明治神宮前駅から地上に出たらとっぷり暗くて、あんな都心なのに街路の灯りを外れると前の人を見失う程でした。もう晩秋ですね...そんな書き出しをした途端にツアーが発表され。SixTONES暦で生きる私はのんびりすることを許されないのか、上等だ!と申込を済ませ、気が付けば暦の上では冬。新曲関連のパフォーマンスのみならず、コラボ企画の多様さに”国民的アニメ”に出演するとはこういうことかと実感させられる「すずめの戸締まり」関連での露出の多さ。追うこちらが大変なのだから、年末年始の予定もぎっしりであろう北斗さんのお忙しさは想像に難くない。それでも、一つ一つのお仕事を言われるがままに流されてこなすのではなく、それぞれの目的と意味を理解して明確な目標をもって誠実にあたられていることが常に伝わってくるので、嬉しく心強く思いながら拝見しています。

そんな立冬の日に「すずめの戸締まり」のIMAX先行上映に行ってきました。完成披露試写会は残念ながら自宅待機組でしたがメディアの高評価は伝わってきていましたし、どの媒体からも北斗さんの澄んで悟ったような目、充実感を湛えた表情が見てとれて。成し遂げたことへの自信が窺えるようで嬉しくて。”ワックワクして”待った初見はIMAXシアターでは一番好きな池袋グランドサンシャインの後方列!見終えてただ、ただ、北斗さんが本当によいお仕事に携わられたのだと心から喜び、しみじみ幸せに感じました。まずは、私的松村北斗史上最高傑作の一つという評を謹呈します。

初の声優、しかも椅子に感情をのせて演技するのは*2難しそうですが、声自体が美しく聴きやすく、変な作為や癖がない言葉が率直に伝わってきて、期待以上の声優ぶりでした。新海監督が安心感を与えて力を発揮できるようにさせて下さったお陰もありましょうし、北斗さんの声や技術だけでなく人となりを含めて選ばれた草太さんだったこともあるのでしょうか。とはいえ草太さんに使命感や自己犠牲を感じこそすれ、監督の仰る神聖さはあまり感じられず。確かにこれまでも北斗さんの役は、祝詞を唱えたり矢で祓ったり鍵で封じたり*3 *4英霊になってしまわれたりする何やら神聖な設定で、もれなく眉目秀麗。でも本作の草太さんは「ありがとう」の声やすずめを思い遣る言葉の抑揚に現れる誠実さのみならず、例えば焼きうどんにポテサラトッピングにどんびきする呟きや、何気ないリアクションにコミカルさもあって。登場した瞬間に「きれい…」とJKに頬赤らめさせてしまう「ザ・イケメン」でありながら、どこかおかしみの滲む、そんな草太さんの人物(椅子)造形は北斗さんだからこそ表現できたキャラクターのように思いました。監督が北斗さんの不憫さや面白さに気付いて書かれたのか、北斗さんという声優を通じて表現がそうなったのか。実際、あて書きとも思える位、人・椅子問わず草太さんの役柄、台詞、動き...様々な場面の草太さんから「私の知る北斗さん」が匂い立ってくるようで、それが本当に心楽しくて。そんな役、制作者に出会える冥利を想像して、私まで幸せになるのです。本作を通じて北斗さんの幅広い表現力、多様な魅力を多くの人に知って頂けそうで嬉しいです。
お話自体は「鹿男あをによし」や「帝都大戦」などでも親しんできた、人の世に災厄をもたらすものを封じ込める*5というSF奇譚的モチーフに、震災の記憶と日本の地方の在り方という社会的テーマを絡めたもの。考察は再見時と原作読了後に譲るとして、すずめの真っ直ぐな逞しさに加え、ヒーロー然としていない草太さんの存在があったから、新海監督作品に私が感じてしまう一種の気恥ずかしさを本作では感じずに、照れや戸惑いなく初見では冒険活劇と成長譚として堪能できたのだと思います。背景にある東日本大震災の描写には被害の少なかった私ですら心の奥の記憶を揺さぶられて涙腺がゆるみそうだったので、仙台で被災した友人に勧めることは躊躇してしまいますが。                                想像以上に心躍らされたのは草太=椅子の躍動感でした*6。椅子アクション史上最高の*7縦横無尽の動き、ミミズが天に拡がり蠢く様のスケール感は大きいスクリーンで観てこその醍醐味でした。「天気の子」「君の名は」はビスタサイズだったと思うのですが、本作がシネスコアスペクト比で製作されたのは、その水平方向の拡がりと、北へ向かうロードムービーとしての性質からなのでしょうか。そのためせっかくの池袋の25.8×18.9m IMAXスクリーンで上下に余白ができてしまっていたのだけが残念。12日のTOHOシネマズ日比谷の新海監督ティーチイン付上映はスクリーン12のVIVEオーディオ、13日は夫を連れてTCX+DOLBY ATMOSで、と其々お気に入りのスクリーンで鑑賞するので、見比べ・聴き比べるのも楽しみです。
「すずめの戸締まり」は、私が目撃してきた中でも北斗さんにとっての大きな転換点に思えるのです。それは内容や実績というよりも北斗さんの在り方、受け止め方という点で、理由はこの宣伝期間の映像、写真の表情が、前述のように何か悟りを開いたかのような、すっきりした穏やかなものだったことです。年下の原さんを見守る立場だからなのか、監督はじめとする制作陣に委ねることができたという新しい経験によるものなのか。

撮影時期は異なるかもしれませんが2022年12月号のCLASSY.、特に表紙のシンプルさも通じるものがあるように思います。2021年の露出が「考えぬいた末に次々変化球を投げている」感じであったのに対して、こちらは「直球をど真ん中に投げこんでいるのにバットもでない」感じ。素をそのまま晒して堂々としている感じが(27歳の青年を評する言葉として失礼かと思うのですが)”大人びて”いて。p.136-7ははっとするような初めて見る表情で、思えばそれが一連の「すずめの戸締まり」プロモーションで見た表情と同じなのです。変化球を投げ分ける北斗さんの努力も素敵だと思うのですが、今回のCLASSY.の素のような安定感と落ちついた佇まいは、大好きです。

転換点といえばLIFE!出演も。北斗さんの形態模写と、挙動不審を演じる様が絶品だと常々思っていたので嬉しくて、NHKさんにますます足を向けて寝られなくなる案件でした。形態模写についてはMCの雌鳥や、Feel da CITYでのWHIP THATでジェシー君の動きを誰よりも忠実になぞりながら1.5倍くらいの誇張が混じる絶妙な感じが好例です。比べるわけではありませんが、強いて例えるならSMAP×SMAPの木村君のジャック・スパロウの再現度+誇張(本物はあんなに手をひらひらさせていないはずだけれど、なぜかわかるー!と思ってしまう、それ)を大真面目にするおかしみ。それが大好きなので、LIFE!のトップガン・マーヴェリックは心底楽しく拝見しました。ダンスがついつい美しくなってしまったり、旋回して飛び去る様が優美であればある程、笑えてしまう。しっかり練られたコント*8をどれだけ大真面目に演じられるか、それで可笑しさを醸し出せるか、を要求される内容には北斗さんはお誂え向きだと思った次第。そしてもう一つ、私の大好きな「挙動不審を演じる松村北斗」。「追放?!」の表情が秀逸で、赤い彗星に怯えうろたえる姿が真に迫る程可笑しみが増して秀逸でした。ただ、私達世代では一般常識に近い赤い彗星ネタ、北斗さんファン層のどのくらいがご存じかしら。

LIFE!は連休に旧奈良監獄を訪れた帰路にあたりリアルタイムで観られなかったのが残念でしたが「音ダメ」は北斗さんが泣かないように(笑)、ジムにも行かずに日本シリーズとテレビ2台で待機して、ちゃんとリアタイ致しました。誰よりもリアクションが大きい北斗さんに、そんなにタライ落とされたかったのかとひとしきりツッコミつつ。ドアップの顔芸も、説明が長くなってしまうのも、痛そうな低周波も(?)伸び伸び楽しそうで、こちらも嬉しくなってしまう。

この時もそうですが、北斗さんネットニュースの見出しになりやすいパワーワードを発されますよね。最近、媒体によってとりあげる部分が全部違ったりして、どれだけ使いやすいインパクトある言葉を高密度で詰め込んでコメントされているのかと。素晴らしい!

Good Luck!/ふたり/Sing Along

おっと、こちらが本業でしたね。声優さんでも芸人さんでもない(笑)
SixTONESさんが口をそろえて明るさを強調する円盤。ジャケット写真のちょっといけずな表情の北斗さんもよいですね。ジャケットやスリーブの色とレーベルの色が3種類で分けられているのでケースにしまうときわかりやすい*9。スリーブの裏の愛らしい模様(この仕様は初めてですよね?)に気付いた時は裏地に凝る着物道楽かい、と。今回もフィジカル円盤への愛が見えて嬉しい。

「Good Luck!」はブラスが快活で、ドラムのリズムが最高。「PARTY PEOPLE」にも思ったのですが、これ太鼓の達人にならないかな~と思いながら車のハンドル叩いています。ライブで一緒に踊る日も楽しみ!TikTok見ています。「0点でも100点でも自分らしけりゃ満点」の心境には、準備不足で軽々に事にあたる態度では至れないから、樹君の檄が利いていて。その歌詞に説得力をもたせられる、日々のSixTONESさんの努力と進歩、人の前に立つ人の影の苦労を思ってしまったりして。私にとっては、売上枚数やランキングより*10、音楽の技術を向上させ、センスが光るよい楽曲を地道に発表して着実に実績を積み上げていって下さることが重要なので、この歌詞、そのままSixTONESさんにお返し申す所存。

「ふたり」のピアノ旋律の美しきこと。冒頭約40秒の、風音、水音、街の音、波の音、布はためく音...環境音のみで始まるMVの斬新さ。それが各々の物語を予感させる。こちらを見つめる北斗さんの眼、窓から垣間見える海、画面の99%を占める空に、すっと存在する髙地優吾。はためく洗濯物...幸せな日常の映像や温かい歌声に宿る微妙な陰影に、CDで聴く前はドラマの内容も手伝って温かさの中の寂寥感が前に立って聴こえました。
けれど、歌詞を全部聴くと印象は変わる。儚さどころか、人としての信頼を確立している相手を歌っているよう。歌詞にどれほどメンバーの意向が反映されるのかはわかりませんが、過去の曲や文章に繰返し登場する「星のない夜」に共にいた人。「孤独を感じた夜、未来に怯えた夜」に「わたしだけを照らして」くれ「止まない雨の中、見えない星の下」「ずっとわたしを信じてくれ」た「あなた」への信頼は、SixTONESさんが抱いてきたそれではないだろうか。しかし、ここでも現れるSixTONESさんの「人間関係における距離感」に顕著な遠慮。「抱き合って向き合って」「何回も名前を呼んでくれ」ている関係性にも関わらず、「あなた」の名前は「呼んでもいいかな?」なのは何故?その、謎の距離感は恋人や伴侶ではなく、私達でもあるのかと。この仮定が正しいならば、私もあなた達の「心の中の一輪の花」のような存在でありたい。
と、御年69歳にして3時間歌い喋り続けてアンコールではNHKホール3階席にマイク通さず声を届けた達郎さんと、その何十年来のファンとの関係性を目の当たりにして、かくあれかしと思いながら。
(ところで、リズム刻むぺちぺちいう楽器、あれは何なのでしょうか?)

他の2曲とも異なる爽やかな曲調の「Sing Along」は、その2曲を包含するようなメッセージ性。
「ひとりじゃない」「ずっと側で見ているから」に励まされる幸せと同時に「不確かな未来 乗りこなす」ことを決断された方達のファンを思うと、「明日へ続く道、歌いながら進むよ」と歌ってくださることのありがたさ、当り前ではないのだ、としみじみ思うsynchronicity。そんな、歌詞が、なかなかしみるご時世です。

「わたし-Lo-Fi ChillHop Remixー」...Lo-Fi ChillHop…とは、なんぞや?から入ったこのremix。知識なしで聴いた瞬間、カフェオレ片手に原田知世さんが微笑み、アンニュイなクレモンティーヌがまったり歌い、の図が脳裏に。そして、混入する謎の声(?)”やみー”(と呼んでいる)。調べてみれば、なる程、「録音環境の悪い」環境音やノイズが含みのアナログ感、醸しだされる懐かしい雰囲気、との由。…私の昭和な感想、当たらずと言えど、遠からず(笑) 。はい、勉強になります。ありがとう。

 本日は「すずめの戸締まり」公開日。この手紙を北斗さんが目にされるとしたら、その頃には世間の大絶賛を浴びて、作品も大ヒットしていることでしょう。一般上映も販売開始した6日深夜にスクリーン数を見て圧倒され、公開前日の席の埋まり方に改めて凄い作品だと慄いております。他の方の感想や映画評を目にしてしまう前にまっさらな状態で「私の感想」を書きたかったので、今日、えいっと書き上げてしまっています。事前に知ってしまうのも嬉しくないなと思って、長年「この表紙を飾ったら本物」と思ってきた念願の日経エンタテインメント北斗さん表紙号も書き終えるまで開かずに我慢しているのです(笑) 
本来は「戸締まり前」にFeel da CITY円盤の感想をお送りするつもりで書き始め、「流星の音色」の感想や、南座観劇の際訪れた大城神社、髙地君堕ちに怯えながら3回観劇した「夏の夜の夢」(なんと、夏組パックに魅入られまして(笑))のこと、奈良監獄訪問の話など、ひどく平和な話を書いてお送りするつもりでのんびりしていた10月。前述のようにツアー発表のような心躍ることもあったのですが、何やら御社の周りがざわつきはじめ。そのような心中穏やかでない時期に「Good Luck!」「ふたり」「Sing Along」には心強さを覚えました。ただ、去る人達を応援し、力をもらってきた友人達の心中を思うと、なかなか自分だけ幸せでのんきな言葉を綴るには気が引けてしまったりして。はい、いつもながらのご無沙汰のいいわけなのですが。

ともあれ今日は北斗さんが「世界に」でる大事な作品の公開日*11。「すずめの戸締まり」と北斗さんの声の演技が末永く世の人達に愛されんことをお祈りしつつ、確信しつつ。
いつでも、「どんな北斗さんも」応援しています。                                             

                                 かしこ

2022年11月11日 行ってきます、の佳き日に        

*1:角川源義

*2:あまりに早々に椅子に変えられて驚きましたよね。人間より椅子でいる時間の長かったこと(笑) 

*3:そういえば、「真っ赤な嘘」の扉抜けは、この映画の匂わせではない....ですよね?

*4:後で考えると鍵で封じるのは本作でした。明け方に書いていると間違える

*5:禍の元を滅ぼさずに封じ込めるという発想は世界共通なのか、日本的なのでしょうか。東京の後ろ戸は大手町の将門塚かしら想像して観ていたのですが、池袋に行くのに乗り換えたばかりのお茶の水だったので、おおーあそこか!と。浪人生の怨念は籠もっていそうな土地ではありますね

*6:椅子ファンになり、段ボールクラフトキット買ってしまいました(笑) その後ボールチェーン付きぬいぐるみまで買ってしまい。こういうグッズあまり買わない私としたことが…

*7:いや、当然、そんなジャンルないわけですが

*8:最近は”ホーム”以外の「激レアさん」や生放送の「ラヴィット!」などでもフリートークで北斗さんの豊富で独特な語彙と会話の反射神経が発揮されていて、嬉しいのですよね

*9:購入時って複数種類の盤を一度に出して喜んでいるので、戻すのに判別しやすいと助かるのです

*10:十分素晴らしい実績、数だと思いますけれど、口さがないメディアは順列をつけるので

*11:海外上映の際、アニメは字幕上映が多いと聞きました。日本語がわからずとも声にこもる感情はうけとってもらえますものね。規模やステイタスが好きなのではなく、関わる作品の質や内容、それを私が好きかどうか、が重要ではあるものの、北斗さんの謙虚さに同居する野心も、方向性と順序が正しいと好ましく思うので、やはりこれは嬉しいことなのです