書簡・編

おたくもすなる日記といふものを、我もしてみむとて、するなり。

048: 2021年11月17日_カムカムエヴリバディ006-010、アトリエの前で

前略ごめんくださいませ

 土曜スタジオパーク、楽しく拝見しました。北斗さんご自身は「急に喋り過ぎる」との認識だったようですが、ワイプで勇ちゃんの苦境を本当の身内事のような辛そうな目で見ていたり、容姿を褒められれば気持ちよくお礼を延べ、上白石さんの印象やANNにかけたオチまでつけたり、と、全国の稔さんファンにも好感度満点の「程よい松村北斗感(ほんのり猫被り)」が届いたようで、何よりです。

4月のビジュアル第一報に北斗さん学生服似合うわーと思っていましたが、想像以上に評判になった稔さんとこのドラマは、私にとっても現時点での北斗さんの最高傑作だと思っています(いずれ更新されることとも思いますが(笑))。

「稔さんファン」の中に楽曲パフォーマンスをする北斗君、ANNの北斗(つっこまれるまでもなくスタパで番宣までしっかりされていましたね)、変幻自在な北斗學園日直、アトリエの前でのDEEP松村...めくるめく松村北斗ワールドにまで辿り着き堪能される猛者の多からんことを。

北斗さんのお陰で30年ぶりに復帰した朝ドラですが、身贔屓抜きで展開は面白いし、脚本・演出に感嘆し、それに応える北斗さんはじめ俳優陣の皆さんの演技を楽しんでいます。 7時半から23時まで毎日4カムカムしていますが、新たな発見が毎回ありますし、どんな朝も「7時半」を目標に起き上がる元気が出ます。日中ふと「何故自分はこんなに疲れているのだ」と思い、朝っぱらから泣いているからかも、と反省した日もありますが(笑) とにかく大好きなドラマに心動かされっぱなしです。

 EPISODE 006

予告ではただただ、稔さんの学帽+マントの素敵さに喜びに打ち震えていましたが、姿勢に気を遣ったりの工夫の賜物だったのですね。川辺を歩む姿、きっちり被った学帽を片手で前から押さえ直す所作が端正なこと。対する勇ちゃんがちょっと斜めに被っているのもよし...。などとのんびりした事を書いている場合ではない。

往復書簡の語りを軸に、彼岸花咲く時期から晴れ着、餅つき、甲子園予選を経て木枯らし舞うまで月日の移ろう15分は圧巻でした。しかも2人の心模様のみならず、語学授業や煙草の名称の変化、ボールの修繕などの映像から社会情勢が伺える脚本と演出の素晴らしきこと。手紙も(古今東西、なぜ想い人には月の事を書いてしまうのでしょうね)例えば「約束、守れなくてごめん」の読点の間に申し訳なさが滲んでいるし、明確に不安とは書かない安子ちゃんの気持ちを汲み取りOn the Sunny Side of the Streetの歌詞を綴る思い遣り。旭川大和川、それぞれの河畔と距離はありながら、重なる声の響きと樹々から零れる陽光の美しさに朝から泣きました。はあー、今週も朝から幸せ、と、しみじみ思った月曜日。

 EPISODE 007

算太兄さんのご帰還。ダンスホール無声映画風回想シーンが、お洒落で好きです。何やら犯罪の匂いのしてきた算太さんに対してもきぬちゃんの言葉や食卓での笑いで救われるし、借金取りすら「饅頭怖い」の一節を言い捨てていったりするので暗い雰囲気になりきらないのはドラマにも”人徳”みたいなものがあるのかしら。日常の様々が戦時色に変わっていっても空気感を表すだけで不安や不平不満を声高に語らず、ケチべえさんに社会情勢からくる言葉を語らせても吉右衛門ちゃんにつっこませることで緩和させてくれるので、朝から見るのにありがたいです。

 EPISODE 008

006の往復書簡の展開に驚かされたのに、すぐにまた、こんな回があるとは。

主題歌が終わり、残り2分で何が...との想像を上回る展開。2カムカム目の朝8時、最後2分を知らなかった7時43分の自分に戻ってもう一度「やられた..」と思いながら見たいと、どれだけ願ったか。

15分の中にすごいドラマがありながら、忙しない感がないのは演出と脚本のキレとテンポの為せる技。台詞や説明を入れずとも、社会情勢も感情も、表情、音声、背景から自ずと伝わってくる。

下宿で「何時の汽車で帰るん...?」と気遣ってあげる稔さんの、映画に誘おうという意図は言葉の切れ目と同時に映画館のシーンになることでわかる。通常なら盛り上げる好機とばかりに映すであろう、汽車の走行音に紛れて泣き出す安子ちゃんの表情は直ちにタイトルバックに切り替え、アルデバランが心情を代弁する。事前に聞いた時にはAIさんの歌い上げる感じが和菓子に似合うかしら、と思っていたのですが、ここでこの歌の意図が腑に落ちた気がします。(実はEverlastingも主題歌でいけるわよね、などと思っていました)

同じく”秘すれば花”的だと思ったのは、岡山駅の車中で安子ちゃんに問いただす稔さんを映さなかったこと。うっすら震える声だけで稔さんの胸中が全て表現されているようで。この、多くを語らない脚本と演出においては俳優さんの力量は本当に重要だと思うのですが、この回の上白石さんと北斗さんには心から盛大な拍手を送りたい。

下宿で思いがけず安子ちゃんに会った時、駅で「それじゃあ、またね」を発した時、それぞれに籠る稔さんの様々な思い。「ありがとうございました」と駅で別れた後の(またね、にありがとうで返すとは...)数秒間と、岡山に着いた車中で稔さんを見た時との、安子ちゃんの思い。複雑に入り混じった、文字にしても陳腐にしかならない感情をテレビの前の私達に伝えきったお2人の、脚本と演出を活かしきったことに脱帽です。

...ところで、下宿の”イ”号室の鈴木君、とっかえひっかえ女性に手を出してはひっかかれて顔に絆創膏って、どこかで聞いたような...(笑) 

 EPISODE 009

タイトルバックの小しずさんの後ろ姿。台所のほの暗い灯りが娘を思う母の気持ちを思わせて。そして戸口から入ってきた稔さんを見た瞬間の金太さんの表情が幾度見ても秀逸なのです。それも瞬時に主題歌に切り替える演出の冴え。

夜遅に娘が伴ってきた男性の挨拶という緊張の場面なのに、たちばなを褒められてご満悦の空気読めない杵太郎さん、安子ちゃんの異変に起き出して来て盗み聞きする店員さん達などちょっと笑えるポイントがあって小気味よい。その演出の安達さんをして『第9回の長いシーンはこちらもどきどきしながらリハをやりました』と言わしめる場面。『松村さんは奇をてらうことなく真摯にやってくださって、誰もがすてきな人と思う人物になっていました』と語っておられましたが、さすがのひささんも神妙にさせる、作為を感じない稔さんの佇まいと誠実さに私も心打たれました。

が、ただ誠実なだけでないのが雉真の跡取りたる稔さん。100点満点の自己紹介に挨拶(さりげなく出自もアピール)。先にたちばなのお菓子を褒め、無礼を承知で、さしでがましいが、と誠に礼儀正しく断りながらも安子ちゃんの縁談に理がないという理詰めのプレゼンから始める。事実関係を冷静に説明し、安子ちゃんを好きになった理由を理路整然と説明し。そんな、商談のようにご家族と話をする稔さんが金太さんから「どんな付き合いか」と問われ、ほんの一瞬、息を継いだようにみえたのも人間らしくてよいですね。そして、ご両親の気持ちも十分汲める稔さんの「夜分に、お邪魔しました」の絞り出すような声...北斗さん、本当に素敵な稔さんなのですね。

たちばなとは好対照な雉真家の明るい照明、稔さんの帰省にはしゃぐ美都里さんを優しく困ったような顔で見る稔さん、千吉さんに前のめりで和菓子中小店舗の趨勢を聞く稔さんを横目に見る勇ちゃんの表情。キャッチボールにかこつけて、さらっと告白する勇ちゃん。そこでTo Be Continued…って罪作りな...

 EPISODE 010

北斗さん、実生活では兄の立場の村上さんに対して、ご自分の弟属性が現れてしまうのではないかとあやぶんでいらしたですが、キャッチボール中「兄さん」と呼びかけられた時の「んっ?」って顔が、誠に”お兄ちゃん”でした。「娘はやれん」と言われたと話す稔さんが一瞬笑った(?)意味を考えてしまいます。

表情を変えず真っ直ぐな目で「許してもらおう」と言い切り、開戦を告げるラジオにも顔色一つ変えずに冷静に情勢を分析していそうな稔さん。逆に直情型の勇ちゃんが、甲子園の中止に声一つたてなかったその無念さも想像に余りある。

お菓子が作れなくなったこと、ラジオ英会話の中止。次々生じる事象がコロナ禍の状況と重なって余計に共感しやすいのかもしれません。しかしそれをおいても、ほとんど表情を変えないのに視線から家族との問題や時勢に対峙する意思が伝わってくる北斗さん、瞳の揺れだけで胸中を知らしめる上白石さん、目線を落とすだけで落胆と悔しさがわかる村上さん、抑え目な脚本と演出に俳優陣が応えているのが本当にすごい。その静かさに真実味があるように思います。

思えば、説明台詞やナレーションがほとんどないこのドラマの重要な狂言回しはラジオだったのですね。安達もじりさんも『ラジオを登場人物のひとりのように撮っていてる』と書いておられましたが、確かに橘家の食卓に共についているように見える時もあり。

放送開始前(10/23)「お兄ちゃん、跡とりだから庶民の娘とは結婚できず、弟君とヒロインが結ばれる展開に一票」と書いた私の予想、当たってしまわないように...

ここまで書いてはっとしたのですが、私は北斗さんに、ではなく稔さんへのファンレターを書いているような...稔さんファンの方達の神格化が進み、現人神化、あるいは英霊となった暁には、「中の人」の北斗さんに「稔さんのイメージを傷つけるな!」などと苦情がきてしまったりするのかしら...いや、朝ドラ俳優っぽいですな...

 

ここまで各話の感想に再三書いてきたように、カムカムエヴリバディの好きなところは、視聴者の抱く感情を過剰な音楽や説明で押し付けてこないところ。それでいて、恐らく皆さん、同じ理解をしているハイコンテクストさ。そして暗くなりそうな展開にほんのりした笑いがはいることで緊張が緩和されるところ。

安子ちゃんにとっては青天の霹靂の見合い話の最中でも「政略結婚」「魂胆」と言い切る杵太郎さんや「(私達は)恋愛結婚♡」と惚気るひささん、盗み聞きの店員さん達。「米英のスパイ」という衝撃発言にも淡々とラジオ体操を続ける、人生3回くらい生きていそうなきぬちゃん。時勢のリアルを代弁するケチべえさんの発言を中和する吉右衛門ちゃんの名ツッコミ。遅刻を吉右衛門ちゃんの名演説でかばってもらった安子ちゃんに現れる、コメディエンヌ上白石さん。服もお菓子も手に入らなくなることが嫌だと平然とのたまうマリー・アントワネットのような美都里さん。初対面で遠慮なく、おぼこいな~って言い放つくまさんと、その大阪のおばちゃん的長口舌をぶった切る演出(笑)(くまさんはこれから活躍されるのでしょうか、楽しみ)

...で、稔さんには、笑えるシーン、ないんでしょうか...(笑) 欲しいなあ...

 

このドラマのもう一つ好きなところは、時代からとはいえ、手紙の価値を全肯定してくれたことです。書くことしかできませんが、書くことこそ自分のできる応援だと思っている私には、手紙のやりとりで心通わせる二人を見るのは嬉しいことでした。6月にお手紙して以来10月まで、書く意欲も内容も枯れたかのように思えていたのに、今や毎週筆を執ってしまうくらい、感想があふれ出てしまうのです。

ヤフコメですら高評価ばかりで逆に気味悪いくらいの本作(笑)、様々な評を見るに「稔さんには俳優松村北斗の人格が滲み出ている」とは衆目の一致するところのようで。スタジオパーク松村北斗にさらに好感を持ったであろう”稔ファン”の一部をANNに誘導し、思い切り”反・稔”的な喋りをくり広げた北斗さんの真意は「構わねぇビビらせてやろうぜ」なのでしょうね。稔さんを「素敵すぎて 「素敵」の形に見えていた感じ」と評されたように、評価が高くなり祭り上げられそうになった途端に”虚像”をぶち壊したくなるのでしょうか。自分という人間を他人に簡単にわかったように語られたくない気持ちは非常によくわかるし、”篩”に残った人達は長く応援して下さるでしょうから、それもよき方略なのかもしれませんね。

が、そうなのであれば「人間性が演技に現れて」としつこく書いた私は平身低頭せねばならない。でも、キネマ旬報には『「求められるこ と、やるべきことをやって、そこにその人の好きなものや自身の魅力がついついにじみ出ちゃう」バランス感覚が素敵な俳優』『 "人としてどうか”~いくら閉じ込めても漏れ出ちゃうような、その人から香る何かっていうものをすごく魅力的に 感じます』と語っていらしたですよね*1。だから自分は間違っていないぞって自分をなぐさめています。そう「スクリーン」に続く映画専門誌(しかも、かなり手厳しい)キネ旬登場おめでとうございます!表紙効果もありましょうが重版とのこと。多くの方に読んで頂けますように。

 

雑誌といえば「アトリエの前で」拝読しました*2。連載も当たり前ではない昨今、残して頂けて本当に嬉しいです。この連載ではいつもそうですが、動き回り汗をかくライブでは難しそうなチャレンジングな髪型、素敵ですね。

今回紹介されていた「青の炎」。母親と元夫との関係を知ってしまった秀一が、はっと身体を固くしたその表情が、今だに二宮和也という俳優に最も凄みを感じた表現だと思っています。今よりもさらに捉えどころのない少年だった二宮君の表した、衝撃、嘆き、怒り、困惑、絶望などの入り混じった鋭く強い負の感情。ストックがなくとも俳優としては表現できるものなのか知る術もありませんが、彼の経験に基づくのであればそのこと自体は気の毒に思いつつ、あの表情を引き出したのであれば見る側としては否定し難い。いや、むしろありがたいとすら。

「内側がスカスカ」して「正解を見失ったように思って」の理由も時期も現状も、こちらからは窺い知るも難しく、残酷かもしれないですが「失敗」も「悩み」もせめて表現者としての栄養になってくれればよいのにと願うしかないのです。星も人も失ってきたとの言に「私は一緒にいるよ」などと応じても、そのような言葉が空疎にしか響かない時があることはよくわかる。むしろ自分が書くなど烏滸がましいとも。だから、ただ、そんな今夜、を北斗さんが味わっていることを否定も肯定もせず、ただ読むことしかできないのですよね。でも、聴く人である私達に対して「君が負けそうな時にはDon't worry, We'll be right here」と歌い、「星のない夜」に共にいた人々を歌う人である北斗さんに対しては、ただ毎度毎度、諦めずにこう締めくくることにしているのです。

「いつでも、どんな北斗さんも応援しています」

                                 かしこ

2021年11月17日

*1:11月下旬号[No.1879]

*2:2022年冬号