書簡・編

おたくもすなる日記といふものを、我もしてみむとて、するなり。

005: 2018年5月22日_ジャニーズJr.祭2018 横浜アリーナ SixTONES単独公演

拝啓

 八十八夜も過ぎて、夏は来ぬ。新茶はもう召し上がりましたか?。私は水出し煎茶の甘露を楽しんでいます。公演を拝見するごとにお手紙を書こう、と先の手紙で決意表明したのに、桜も盛りのSixTONES単独公演の感想は、書いては手を止めの繰り返しで蛙始鳴には出そうと思いながら竹笋生の候になりました。

単独公演後も、Endless SHOCK、恋するヴァンパイア、Sexy Zone in 仙台・横浜、滝沢歌舞伎椎名林檎@国際フォーラムKAT-TUNのUNION...と様々な公演を楽しんでいたのですが、それでも”GWの渋滞の最中、咲き誇る桜を思い出して”(どころか、ずっと心とらわれて)いた人が少なくともここに1人(笑)。

ここまでお手紙を出せずにいたのは、あの幸せな空間、時間を表す言葉を失っていたからです。一夜限り、という特別感を除いても、あれほどの熱気はなかなか浴びられないライブに、センターステージ真横の席で参加できた僥倖。しかし今回程photographic memoryの持ち主を羨んだことはないくらい、思い出そうとする程に記憶は曖昧で、ファンの方々のSNSや様々な記事を渉猟するにつれ、「自分の感想」が「自分の記憶」の「自分の言葉」によるオリジナルなのか、誰かの借り物なのかわからなくなり、そんな感想を送り付けるのは不誠実に思えて逡巡していたのがこの1か月半でした。

 

高校生の頃リバイバル上映で観たディーバという映画では、レコード収録をかたく拒むオペラ歌手の歌声を、思い焦がれてこっそり録音した青年がそれを契機に事件に巻き込まれるのですが、今回のSixTONES単独公演の情報局映像が公開されるまでの私には、その場限りのものを記録して自分のものにしたいという主人公の切望が今にして身にしみました。

一方で歌姫が収録を拒む「歌うには必ず聴き手が必要で、コンサートはそのための、歌手にとっても聴衆にとっても、唯一の瞬間である」との理由も道理で、3月26日の夜は予め映像化が想定される公演よりも、誰もが集中力をもって参加していたし、北斗さんが叫んだ「このまま時間が止まれば(戻れば)いいのに!」は、あの時の誰もが思っていたことだと思います。それでもやはり映像化は嬉しくありがたいもので、情報局の映像を視ることができたので、ようやくお手紙を出す勇気も出たのです。捨てるところのない2時間弱を1/4に編集されたスタッフの方々のお骨折りには本当に感謝しています。

 

好きなアーティストのライブでは演者の一挙手一投足に息をつめるファンでありつつ、演者の意図にすぐ反応するスタッフのようでありたいと思うのですが、あの日の横浜アリーナの客席はほぼ”同志スタッフ”で埋められていたようで、ステージと客席の間に幸せな阿吽の意思疎通がありました。

一方で演出やアレンジには「うわあ、そうきたか! 」と思わされる心躍るような裏切りもたくさんあり、制約があろう中でシンプルな装置を効果的に使っていたり、「これやっておけば喜ぶだろう」という安易なファンへの媚や演者の独りよがりもない、緻密で気持ちのよい構成だったと思います。

まずは意表をつく新曲披露。「史上最高にワイルド」な新衣装と聞いていましたが、wildの語義通り野生動物だったとは。初めて見る人にも動物モチーフのコンセプトがわかりやすく、他ではあまり見たことのない個性的な造形が印象に残りやすいので、YouTubeで名刺代わりに世界に披露するのによい衣装だと思います。

Jungleでは檻を出入りしたり蹴倒したりの動きで楽曲とグループのイメージが効果的に表現され、オリジナル曲remixでは看板で持ち歌の布陣を示したり、それを担ぐ動作で厳つさを表現したり、ただの布をこの上なく艶っぽい装置に変えてみせたJAPONICA STYLEといい、予算や時間が限られているであろう中、シンプルな舞台装置や小道具を活かすイデアの豊富さには舌を巻きます。

舞台上に配置された小さなライトが印象的だったのがLOVE JUICEでした。需要ある定番なのは承知しつつも若い男子があまりにあからさまに肌見せしていると、私は照れてちょっとひいてしまうのですが、LOVE JUICEは客席から悲鳴すら飛ぶ過激さながら、陰翳礼賛、嫌な媚がなく、あたふたとMCに切り替えて愛嬌に変えてしまった絶妙な間も相まって、以前にも書いた皆さんの「過剰になる一歩手前の含羞」がみえて頬がゆるんでしまいました。

オリジナル曲remixの複雑な展開は、大好きなBE CRAZY × ZIG ZAG LOVEの後半の疾走感を上回るスリリングさに胸躍りましたが、Batteryの入り方もこれでどうだと言わんばかりの想像を超える攻め方でBatteryキタ――(゚∀゚)――!!と思いきやThe D-MOTIONが始まり、喜んでいるとBatteryに、という一筋縄でいかない流れには心が沸きたちました。その、うわぁーやられた!!の瞬間の歓声が情報局動画に入らなかったのはちょっと残念でしたが、北斗さんがスライディングされたところを映して下さったのは嬉しかったです。

Batteryでは湾岸ライブや少年倶楽部の時と異なり、広い会場ならではのセンターステージからバックステージへの移動があるためダンスを通しで観られなかったのですが、花道を闊歩する時の覇王感は他のJr.グループにはなかなか出せないもので、この曲に新たな魅力が加わったように思います。

既知の曲のアレンジも楽しいのですが、今回はアルバムを聴きこんでいくツアーと異なり初めて知る曲もありました。

SHOTは曲調はすごく好きですがきちんと聞いたことがなかった曲で、おっしゃれな曲かと思いきや、歌詞を調べたら少し意外で、今の皆さんの心境を表しているのかしらと想像を巡らせてしまいました。

あやめは初めて聞いたのでオリジナルを知らないのですが、この曲の冒頭とらいおんハートの音域の北斗さんの声がすごく好きです。北斗さんは肩や股関節、胸腰椎の可動域が大きいのであやめのコンテンポラリーダンスも似合いますね。ツアーだったなら観客の反応もとりこんで演じこまれていくのを堪能できるのにと、もったいなく思いました。あやめの衣装は、他の曲とほぼ同じなのにストール1枚で曲の世界観に合致させる着回し力はさすがだと思いましたが、裸足であったらもっと素敵なのになあ...

情報局で動画を見て記憶と異なり意外だったのは、所謂お手ふり曲があったことでした。満遍なく近くへ行くことの重要さは承知しつつも、ダンスや演出を楽しみに予想していたり、振付が好きだったりする曲が、単に「お手振り」や「移動」に費やされていると、ちょっとがっかりしてしまうこともあるのです。ところが今回はがっかりした記憶がなく、それはスタンドトロッコの北斗さんと樹君が上空から「下の方サボんなよ!」とあくまで”参加”を要求してくれたように、お手ふり曲でもただ待つだけでなく、自分達が能動的に動いていたこと、移動時にも看板を担いだり細やかに演出が加えられたことで冗長さを感じなかったことが要因だと思います。

煽りでは他にもジェシー君の「さっ、わっ、げぇー!」がリズム感や間、native発音でかっこよく”make some noise!”とか叫べるのに敢えて日本語なところも含めて素敵で、大好きです。言われずとも大騒ぎの観客席でしたが、映像を見るに、「さぼんなよー」「まだできんだろー」と、かなり頻繁に”教育的煽り”が入っているのですよね。SixTONESの皆さんには、これからグループが大きくなっていっても「俺ーお前達」の関係性のまま、ファンに挑戦し、要求し続けていって欲しいと思います。

 

タレントさんのテレビでの露出が増えるにつれ”多少興味がある”層が足を運ぶようになるとライブはより大きな会場でできるようになり、それを世間では成功と定義するわけです。一方でタレントさんが「茶の間で消費される存在」になると、参加の仕方は個人の自由ではありますが、ライブでも準備も参加意識もなくテレビのように「ながら見・流し見」をする人が増えるのは寂しいのですよね。

多分、最初に「ながら見」を容認したのは中居君だと思うのです。98年のBIRDMANツアーはジャニーズにほぼ興味のなかった私がすごいエンタテイメントだと感嘆させられたクールで洒脱な演出であったのが、2003年に中居君が自らのソロ曲をトイレタイムと称した自虐を真に受けて歌の最中にトイレに行く半可通が少なからず客席に現れたことが契機だったと思います。「せっかくのコンセプトをも揺るがしかねない“オチ”を、付けずにはいられないエンタメ魂」と市川哲史さんが評した*1ように、しゃれとわかっていればよいのですが、中居君は客席がそのような状態になって幸せだったのかしらと思ってしまうのです。

嵐がファンを試すような挑戦的な構成を続けてこられたのが全国行脚する”スタッフ的な固定ファン”ありきであったのかどうかはわかりませんが「すごく善なる物を共有する空間」*2であり得たのは、嵐とファンの信頼関係故だったと思います。それが「誰にでもわかりやすい」構成に方針転換されたように思ったのは2009年の10周年5×10ツアーだったと思います。新規ファン層をさらにとりこみグループが成長するためには正しい戦略とわかっていても、彼らはファンへの挑発や、それがよって立つファンへの期待や信頼を諦めたのだろうと寂しい気がしたものです。

観客の多様化で何も言わずとも演者の期待に応えようとするファンが少数派となり、客席の自発的参加を期待できなくなったために、松本潤君は技術力で5万人のペンライトを操作し始めたのではないかと時に勘ぐってしまうのですが、3月26日、一言で「ペンライトを一斉に赤にさせた」皆さんと「(点灯直後は白の)ペンライトを一気に赤にしてみせた」私達は、5万本を自在に操る潤君達より幸せだったはずです。ソロで逐一メンバーカラーに変わるペンライトを「従順さ」と言う人もいますし、ペンライトは「なんとなく上下していれば参加している気になる」両刃の剣(by 光一君)でもありますが、あの日の1万数千本の色とリズムは、明確に主体的な貢献の意思表示でした。

 

ファンが主体的なのはグループの個性を反映しているのかもしれません。SixTONESを評するに「意思」という語がよく使われるのは、意図的であれ無意識であれSixTONESのセットリストが”決意表明”の歌で占められているのもあると思うのです。選ばれる歌詞の頻出語が「未来」「今」で、”愛”を歌う曲も「自分はあなたとこうしていきたい」という意思表示で、対象も友人、家族とも解釈できるのが特徴のように思います。今、と、これから、しか眼中にないスタンスは大好きで、私自身もそうありたいと願っているのに、あえて愚痴ともとれるSMAPや嵐の昔話を書いたのはSixTONESの成功を確信しているからで、すごい速度で駆け上がっていってしまわれるその時が来る前に、まだ声の届きそうな今のうちにと書いてしまいました。ご容赦ください。

 

3月~4月のいろいろな公演で、メンバーの皆さんの姿をおみかけしました。楽しそうでかつ真剣に見学されていて、SixTONESのつくり出すものが斬新であっても突飛ではないのは、正統をよく知った上で破っているからなのだと思いました。守破離で言えば”破”の段階ですよね。今の演出や構成がメンバー発信のものであればセンスに自信を持って欲しいですし、スタッフ由来であるなら本当にそのスタッフさんを大事にしてついていってほしいと思います。専門家でもないのに偉そうな物言いで恐縮ですが、SixTONESに関する私の価値観は他の方々の多くのそれからさほど乖離してはいないと思います。

先日、SixTONESの皆さんが「Jr.のままで最高峰を目指す」と語っていらした記事*3を読みました。その前に北斗さんにさしあげた手紙で「どこにいるか、ではなく、そこでどこまでやるか」などと上から目線で自分の座右の銘を書いてしまっていたので、自分の手紙の影響かと一瞬驚きました(笑)。取材時期を考えれば私が激励めかして書くまでもなく、とうに皆さんは腹をくくっていらしたところだったのでしょう。曲解したファンの方達には物議をかもした記事ではありましたが、私の考えが皆さんと同じだったことを嬉しく思い、大きなお世話ではなかったようで安堵したものでした。

 

そろそろ夏の予定も発表されるのではないかと楽しみにしておりますが、ライブや舞台の端境期も、毎日欠かさず見ているYoutubeが充実していて、編集や演出が入るテレビよりも安心して楽しく視られるので、Jr.ファン極楽だわぁと思っています。そういえば、楽屋で打った趾は、その後お加減いかがでしょうか。電車で見ていて、AH!!!!!!!!!!!!に思わず声を出して笑ってしまい私も恥ずかしかったですが、北斗さんはもっと痛かったことでしょう。趾の骨折はしばらくたってわかることもありますし、3か月くらい腫れが続くこともあります。骨折だったとしても、もう癒合する時期ではありますが、どうかお大事になさってください。

 

便箋と封筒は季節柄、泰山木(Southern magnolia)にしました。泰山木の花言葉の「前途洋々」「壮麗」が北斗さんとSixTONESにぴったりだと思います。前述の守破離でいうと、先輩に先駆けて挑戦されているYoutubeは”離”ですよね。まさに前途洋々。どんな企画が出てくるのか期待でいっぱいです。今度はYoutubeの感想も送らせてください。もちろん、夏以降の楽しい予定のお知らせも心待ちにしております。                          

                                  かしこ

2018年5月22日

*1:市川哲史「最新DVDで見るジャニーズライブ 熱狂ステージの作り方」日経エンタテイメント

*2:中島信也「嵐 グループ力アップ、充実するソロ活動、デビューから8年、再加速した理由」日経エンタテイメント2007年9月号

*3:Stage navi vol.20